玉出ジャズトリオ 回顧録


玉出ジャズトリオをご存知だろうか?

玉出ジャズトリオというユニットがあったのをご存知だろうか?
おそらく、1985年頃だったと思う。情報誌のライブ情報のページを見ていて、このトリオの名前を目にした。ライブ情報にメンバーの名前、石田長生さん、藤井裕さん、島田和夫さんの名前が並んでいたので喰いついた。ジャズなんて全く知らないが、ゲストボーカル 木村秀勝(充揮)さんと記載されていたこともあり、行けば楽しめるだろうと思った。

帝塚山でライブ

ライブ会場が”帝塚山バラード”ということで更に気を惹かれた。お店に入ったことは無かったが、その頃は、お店の前を毎日のように通っていたから店名と場所は知っていた。加川良さんの4枚目のアルバム『アウト・オブ・マインド』(1974年)のジャケットに描かれている阪堺線 姫松の駅から歩いて1分ぐらいの所だ。

チケットを購入するためにお店に行くと、マスターがチケットを取り出しながらカウンターに座っている男性に「チケットを買いに来て下さったよ」と声を掛け、その男性がグラスを少し上げて「ありがとう」と言った。店内の照明は押さえられていたので、最初は気付かなかったが、その男性は藤井裕さんご本人だった。腰が抜けそうなぐらい驚いた。今なら、適度な距離をおいてカウンターに座って、バーボンの一杯でも飲みながらタイミングを計って話しかけるぐらいの図々しさはあるが、その頃は、レコードを出している人は雲の上の存在で、話しかけるどころか、同じカウンターで飲むなんて想像もできなかった。お店には申し訳ないが、チケットを購入するだけで精一杯で、一杯もオーダーせずにお店から飛び出した。
後から思えば、ミュージシャンのプライベートタイムを目の当たりにしたのは、あの時が初めてであった。そんな出来事もあって、ライブがとても楽しみであった。

本当にライブは開催されるのか?

ライブ当日、開場時間のちょっと押しで”帝塚山バラード”に着くと一番乗りだった。キタのバーボンハウスやミナミの Luiなどでのライブに行くと、開場前からお客さんが並んでいるのが普通だったので、すごく不思議な気分だった。しかも、お店の入り口近くに楽器がセットされていたことにも違和感を感じた。テーブルに座るなり、THE VOICE & RHYTHM のライブでいつも最前列に居る女性が入ってきた。顔をはっきりとは覚えていなかったが、いつも首にバンダナを撒いていて、その日も首にバンダナを撒いていたので間違い無い。彼女が入ってきてから30分ぐらい経っても他にお客さんが入ってこない。「本当に今日、ライブがあるの?」と思ってしまう。バンダナの女性も不安そうな表情である。目の前にセットされてある楽器が心の拠りどころである(笑)
開演15分ぐらい前に1人2人とお客さんが入ってきたが奥のカウンターへ行ってマスターと親し気に話しているので、お店の常連客か関係者だろう。「まさか観客は2人?」と心がざわつきだした。それでも、開演直前になると、ぞろぞろと数人のお客さんが入ってきたので気持ちが落ち着いた。

ジャズは大人の音楽

ライブは石田さん、藤井さん、島田さんの3人によるインストゥルメンタルの演奏で始まった。ジャージーでムーディーなナンバーが続くが、”枯葉”(Autumn Leaves)以外は知らない曲である。それでも、とても心地よい。MCで石田長生さんが「焼きそば焼かしたら、さぞかし上手いんやろうな」とベタなことを言っていた時に、島田さんのブラシ捌きが心地良いポイントであることに気付いた。他にも歪んでいないギターサウンドや落ち着きのある低音が染みてきて、ライブが進むにつれて音楽に引きこまれていった。
数曲やったあとでゲストボーカルの木村秀勝さんがステージに呼び込まれた。くわえ煙草で、ゆっくりとマイクの前まで歩いて来る。流石にジャズの雰囲気なのか、いつもの「アホー!」の野次は飛ばない。スタンドマイクに向かってしっとりとスローなナンバーを歌う。この頃はまだ「天使のダミ声」のキャッチフレーズは無かったはず。ジャズを歌う木村さんのボーカルは実に素晴らしい。実に素晴らしいのだが、指に挟んだ煙草が気になる。あと少しでフィルターが焦げる。木村さんの目の前に座っていたので、灰皿を用意していつでも差し出せるようにスタンバイした。曲が終わるなり、灰皿を差し出すと「何くれるの?」と灰皿を覗き込む。煙草を指に挟んでいる事を忘れて曲に入り込んでいたのだ。そしていきなり「熱っ!熱っ!熱っ!」と言ってフィルターの焦げた煙草を灰皿に投げ込んだ。まるで吉本新喜劇である。会場は大爆笑で、あちらこちらから定番の「アホー!」の野次が飛びまくる。もちろん返しは「アホいうもんがアホじゃー!」ムーディーなジャズの雰囲気が台無しである(笑)
しかし、再び曲が始まると空気は一変する。憂歌団では感じた事のない世界に引きずり込まれていき鳥肌が立った。

怒涛のライブ後半

後半は少しずつアップテンポになっていった。「ルート66」(”Get Your Kicks On” Route 66)になると演奏もヒートアップし、ボーカルもシャウトする。今までステージも客席も、ジャズということで気取って押さえていた分、うっぷんを晴らすかのように爆発した。しかし、その時である。最初にも記載したように、店の入り口はステージの横である。客席の前の方から入り口付近の様子が見えるのである。入り口付近でマスターと誰かがやり取りをしている。よく見ると相手は警察官である。おそらく近隣から騒音のクレームが来たのであろう。「もう終わる」とかなんとか言って説き伏せたのか警察官は帰っていった。ステージは大いに盛り上がってエンディングを迎えた。
ところが、これで一件落着ではない。アンコールがあるのだ。アンコールは「スイート・ホーム・シカゴ」(Sweet Home Chicago)である。当然ながら原曲であるロバート・ジョンソンのヴァージョンではなくパーティー・バージョンである。 Like a Rolling Stone ! 転がる石のごとく勢いは止まらない!
会場はノリまくっていたが、また入り口付近で何やら揉め始めた。立ち入ろうとする警察官をマスターが懸命に押しとどめようとしている!しかし、マスターは押し切られて2人の警察官がステージの所までやってきて何かを叫んでいる。その声は曲のエンディングの爆音にかき消される。仕方がないといういう表情で手を振って「やめろ!」とアピールした所で演奏が終わった。曲が終わっても、客席の後ろの方は警察官が乱入したことで、余計に盛り上がり歓声があがる。警察官が制止して「速やかに退場!」と叫んだ。

そのライブから約20年後

その印象深いライブから20年以上経って、藤井裕さんのソロアルバム『フジーユー』(2007年6月)がリリースされてから後の話である。藤井裕さんと親しい方に玉出ジャズトリオ@帝塚山バラードの話をした。その方も関係者の一人として、その場に居たそうである。そして「裕ちゃんにその話をしたってみ。喜ぶで。帝塚山バラードの常連でマスターにお世話になっていたし、玉出ジャズトリオは裕ちゃんが言い出しっぺやったはずやしな」と言うので、ある日、裕さんにその時の話をした。
ご本人も帝塚山バラードでライブをやったことは覚えていて懐かしそうにしていた。しかし、警察官が乱入したことは全く覚えていなかった。あの衝撃的なエンディングを覚えていなかったのである。その事に新たな衝撃を覚えた。
先ほどの藤井裕さんと親しい方に、裕さんが警察官乱入のことを覚えてなかったと伝えると、「それは仕方ないわ。裕ちゃんはシン※ー・ソング・ライターやから」と笑っていた。

文 うっちー

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です